滝井通信

先輩と後輩

2023.02.01

みなさん、こんにちは。校長の松下です。

 さて、暦は今日から2月。まだまだ寒い日は続きますが、いよいよ3年生のみなさんは、今月20日の卒業式まであと3週間足らず、高校生活も残りわずかとなってきました。
 考えてみると、こうして3年生と2年生の2学年がそろって合同朝礼ができるのも、今回が最後になります。
 そこで、3年生にとっては2年生という後輩が、2年生にとっては3年生という先輩がいる最後のこの機会に、「先輩と後輩」というものについて、少し話をしてみたいと思います。

 私たちを取り巻く人間関係には色々なものがありますが、先輩と後輩という関係もその一つですね。
 人間には年齢があり、また、学校や会社においても何年入学組、何年入社組といった年次がある限り、先輩と後輩という関係は必ずついてまわります。

 その中でも、学生時代の先輩・後輩の関係は、また格別かもしれません。部活動や生徒会活動などで、学年交じって活動する機会が多い人はより強く感じるかもしれませんが、学生時代の先輩って、後輩から見るとすごく大人に見えませんか?
 知識や経験、スキルなど、どれをとっても自分とは比較にならないほど大きく、強い存在に見えます。
 高校1年生から見た高校3年生とか、大学1回生から見た大学4回生とかは、自分とは全然違う、ものすごい大人、先輩かっこいい、尊敬します!みたいな感じになってしまいます。
 その逆で、先輩から見た後輩はとてもかわいい存在です。
 
 このように、みなさんの世代の16歳と18歳の力関係は圧倒的な差に感じますが、これが30歳と32歳だとどうでしょう?力関係の差はほとんどないと言ってもいいと思います。私のように55歳とかになると、2つ下の53歳だろうが2つ上の57歳だろうが、何が何だかもう分かりません。
 みなさんの時期の1年・2年はとても濃密ですので、先輩・後輩の年齢差から受ける印象がとても大きく感じられるのだと思います。
 それだけに、学生時代の先輩・後輩の関係は、社会に出てからの先輩・後輩よりも強い関係に感じられ、その時期を逃してはもう二度と味わえないかもしれない貴重なものだとも言えます。
 みなさんももう少し年を取ってからしか実感できないかもしれませんが、残された限りある時間の中で、高校時代の先輩・後輩の関係を存分に味わってほしいと思います。

 ところで、こういう話をしてくると、部活動などで見られがちな上下関係の厳しさや、先輩・後輩の関係に何かしらの煩わしさを感じる人もいるかもしれません。
 日本社会では、子どもの頃からある程度の上下関係を叩きこまれます。私の若い頃は徹底的にそうでしたし、今は多少マイルドになってきたにせよ、そうした考えを身につけずして、この社会を生きていくのも難しいのも事実です。
 もちろん、先輩を敬うのはとても大事なことですが、それが行き過ぎて「先輩だから敬う」とか「先輩しか敬わない」、さらには「あなたより私のほうが先輩だから私を敬え」となると、何だか話がおかしくなってきます。
 つまり、人間関係を円滑に運ぶ上では、タテの関係だけではなく、ヨコの関係も重視しないといけないということです。

 ヨコの関係を構築する上で重要な要素は、「尊敬」と「信頼」と「共感」の三点です。

 まず「尊敬」ですが、ここでいうところの「尊敬」とは、下の立場の人が上の立場の人を崇め奉るような態度ではなく、性別や年齢、職業、役割、趣味趣向などが違ったとしても、相手のことを自分と同等の権利をもつ一人の人間として大切に思い、敬う態度のことです。
 誰が上、誰が下ということではなく、みな等しく価値があり、等しく大切にされるべきだという基本前提です。この「尊敬」は、みなさんがよく使う「リスペクト」するとニュアンスが近いと思います。

 そして、相手と関係性を結ぶには、相手を「信頼」しなければなりません。
 「信頼」とは、相手に対して、その人が取るであろう未来の行動を期待して信じることです。
 知り合って間もない人を信頼するのは、きわめて難しいことです。しかし、「この人(この人たち)とよい関係を築いていきたい」「この人(この人たち)とよりよいチームを作っていきたい」と心に決めたら、まず自分から相手を「尊敬」し、「信頼」することが必要です。
 「あなたが私を信頼するなら、私もあなたを信頼する」では、相互尊敬、相互信頼の関係性は作れません。
 自分が先に、より多く相手に対して「尊敬」や「信頼」の気持ちを持つ、それには立場や役割の上下は関係ありません。

 そして最後に「共感」です。
 英語で言うと「sympathy(シンパシー)」という言葉がありますが、ここで言いたい「共感」は、実はシンパシーとは少し違います。
 英語のシンパシーが意味する「共感」は、「相手の問題を理解して気にかけているよということを示す」ことであったり、「相手の考えに同意を示す」ことです。
 しかし、ここで言う「共感」とはそうではなくて、英語では「empathy(エンパシー)」の方で、「相手の置かれている状況や考え方、意図、感情などに関心を持ち、相手の立場で見て、相手の立場で聴き、相手の立場で感じる」ことをいいます。
 つまり、「自分がその人の立場だったらどうだろうと想像することによって、誰かの感情や経験を分かち合う能力」のことを言います。少し難しく聞こえるかもしれませんが、みなさんも身近な人たちに対してはできていたりする感覚だと思います。
 自分のものさしだけで物事を見ず、色々な考え方を受けとめ理解することが必要です。

 このように、ヨコの関係で相手を「尊敬」し、「信頼」し、相手の身になって「共感」する。今の時代、このように人間らしい素直な感情が、より良い関係性を築くベースになると思います。

 

 さて、いかがでしたでしょうか。今日はみなさんの先輩・後輩関係の話から、何かと難しい人間関係のあり方の話までしてみました。みなさんが生きていく上で、いくつになっても必ずつきまとう話ですから、参考にしてみてください。

 それでは、今日の私の話は以上になります。どうもありがとうございました。