滝井通信

スマホを置いて、思いをめぐらせよう

2022.11.01

 みなさん、おはようございます。校長の松下です。

 前回の合同朝礼では、みなさんに「SNSの評価から離れよう」という話をしました。
 “誰かに評価してほしい”とSNSに振り回されるのではなく、自分の価値観で判断し、胸を張れるような生き方をしようという話でした。
 今日は、前回に続き、みなさんの生活に今や切っても切れない存在となっているSNSの実態や、スマホを使っていく上での注意点などについて、もう少し話をしてみたいと思います。

 ところで、みなさん、SNSなどのソーシャルメディアで起きていることは、社会全体を反映していると思いますか?
 実のところ、それはかなり疑わしいと言われています。ソーシャルメディア上の発信のほとんどが、フェイクアカウントやボットアカウントによるものではないかとの調査が多く発表されているんです。

 フェイクアカウントはみなさん分かりますよね。嘘のアカウントのことです。
 一方、ボットアカウントとは、ツイートの投稿などをコンピューターで自動で行っているアカウントのことで、ソーシャルメディアのアカウントの1560%はこうしたアカウント、つまり、生身の人間のものではないと推測されています。
 ある調査によると、2016年のアメリカ大統領選挙、トランプ大統領が誕生した時の選挙ですが、この選挙に関連したツイートの20%はボットから発信されたものという結果だったそうです。
 またテイラー・スイフトやリアーナ、ジャスティン・ビーバー、ケイティ・ペリーといった有名ミュージシャンのツイッター・アカウントをよく調べたところ、数千万というフォロワーの大部分がボットだったことが分かったそうです。
 みなさん、どうですか?ビックリしますよね。
 

 また、ネット文化には、「9091の法則」と呼ばれるものがあります。
 それは、ユーザーの90%はただ見ているだけで参加せず、そして9%はコメントを書くなど控えめに参加するにとどまり、残りのわずか1%がほとんどの発信をおこなっているというものです。
 この1%の人たちは、自分には世の中に意見をする権利があると考えていて、さらにそれなりの頻度でそれをおこなうだけの時間もあるという、かなり特徴的な傾向を持っています。
 こうした人々が、社会の典型的な層と言えるでしょうか?

 加えて、オンライン上では、激しい怒りや皮肉、大げさな話が一番の関心や注目を集めます。中立的な意見や真面目で控えめな投稿は、あまり拡散されたり、メディアで引用されたりしません。ゆえに、オンライン上で表現されている意見は、実際の世の中の意見をどれだけ反映しているかは極めて疑わしいものだと思って接していないと、非常に危ないことになってしまいます。
 「SNSは社会全体を反映してはいない」ということです。
 

 そんなSNSを使う際の道具と言えば、スマホですね。
 みなさん、手持ちぶさただったり、少しでも時間が出来たりすると、反射的にスマホに手を伸ばすのではないでしょうか。
 現代人はスマホがないと落ち着きません。実際にメンタルヘルスの専門家は、スマホへの依存には、行動的・心理的・神経生物学的に薬物乱用と同じ要素が多くあると指摘しているそうです。

 スマホは、SNS、ゲーム、ニュース、動画、音楽、買い物、その気になれば何でもできます。このどれもが、できたところで生きた人間とのつながりに比べたら充足感を与えてはくれませんし、心身の健康に必要不可欠なものでもありません。
 それでも「いつかは大当たりを当ててやる」とギャンブルにのめり込む人のごとく、私たちはタップやクリック、スクロールをし続けてしまうんです。“乗り遅れたくない” という恐怖に突き動かされ、私たちはこの衝動を抑えることができません。
 みなさんは、学校の休日の時など、スマホを1時間、どこかにしまっておくことはできますか? 30分は? 5分ではどうですか?

 ウェブサイトや様々なアプリ、コンピュータゲームなどは、みなさんの関心をとらえて離さないように設計されています。なぜなら、こうした開発企業は、みなさんのタップやクリック、スクロールでお金を稼いでいるからです。
 つまり、人々の関心や注目の度合いが経済的な価値を持ってきているわけで、これを関心経済(アテンション・エコノミー)と言います。この関心は、その質は関係ないわけです。
 とにかく人々の関心を呼べればいいので、みなさんを虜にするために、コンピュータサイエンスや脳科学、心理学といったあらゆる方法を駆使して、みなさんの不安や虚栄心、欲求を刺激する方法を開発しています。私たちが本当に関心を寄せたい対象からの注意を奪うべく、恐ろしいまでの仕掛けが施されているのです。
 こうした仕掛けには、注意力が散漫であればあるほど影響されやすくなります。一時たりともスマホが手放さないという人がいたら、まさにこうした罠を仕掛けた人たちの思うつぼにはまっているわけです。

 スマホを見るということは、現実の世界で起きていることに集中しにくくなるということです。
 現代人は、空想にふける能力も失いつつあると言われています。空想にふけるにも、ある程度の注意力を必要とするからです。
 人は、新たな気付きを得たり、持てる才能を発揮するためには、誰にも邪魔されずに長時間にわたり物思いにふけるといった時間も必要なんですよ。

 今日はみなさんに、SNSの実態やスマホを使う上での注意点についてお話ししました。みなさんには、今の自分の生活におけるスマホの位置づけを再確認し、今日の話も参考に、SNS・スマホとのつき合い方・使いこなし方を是非考えてみてほしいと思います。
 そして、たまにはスマホを置いて、ゆっくりと物思いにふけ、色々なことに思いをめぐらせてみてください。

 それでは、今日の私の話は以上です。どうもありがとうございました。