滝井通信

「自分力」を大切にする ~ジェンダーバイアスを知って~

2022.10.03

 みなさん、おはようございます。校長の松下です。
 さて、暦はもう10月です。先月は、滝井フェスタ~文化祭&体育大会~があって、みなさんにとっては、充実したそして思い出に残る日々だったかと思います。
 それぞれの行事の閉会式の講評ですでにお話ししましたが、当日の演技・演奏・パフォーマンスももちろん素晴らしかったのですが、それに加えて事前の準備や後片付けの際のみなさんの姿を見て、本当に感心しました。中には、重たいものを運ぶ力仕事などもあったと思いますが、みんなテキパキと動いていて、とてもよく頑張っていました。
 その様子を見ていて、少し思うところがあったので、今日はみなさんにその話をしようと思います。


 唐突ですが、みなさんは女子校生ですよね。私が滝井高校に来るまで、銀行員をしていたという話は何度かしたことがあったかと思いますが、その際、女子校出身の部下もたくさんいました。全員にあてはまるわけではないと思いますが、女子校出身の人たちにはある傾向がありました。それは何だと思いますか?
 それは、男性と女性はそれぞれこうあるべきだといった意識があまり無いので、男女差を意識することなく、何事もちゅうちょなくサッとできる人が多かったということです。
 例えば、コピーをしていてコピー機が詰まってしまったとしても、「嫌だ、詰まっちゃった。どうしよう。」などと言って、周りに“助けて”サインを出したりなんかしません。黙って、ガッとコピー機の扉を開けて、自分で何とかしようとガチャガチャやり出します。また、何か指示を出しても、男性と同じように、仕事の種類を問わず、パッと動いていました。

 女子校には、当たり前ですが、男子生徒はいません。みなさんは今、女子だけの集団の中で過ごしていますが、一般社会に出れば、当然のごとく男女が入り交じっており、女性だけの世界はあまりありません。文化祭や体育大会でみなさんが普通にやっている準備作業や片付け、もし男子生徒がいたらどうなるでしょうか?
 おそらく、そのほとんどはしなくても済むかもしれません。先生が男子にするように指示を出す、あるいは、男子が「俺たちがやるから」と、女子をそこから追いやる。また、行事の企画なんかも、なぜか男子中心に進んでいく。そうしたことが起きるはずです。
 このような男はこうあるべき、女はこうあるべきという無意識の決めつけ、偏見や差別、これをジェンダーバイアスといいます。

 ジェンダーバイアスは世の中にあふれています。みなさん、次の言葉を聞いてどう思いますか?
 「女子力」「リケジョ」「女子アナ」「女性起業家」「女性パイロット」。
 またこんなのはどうでしょう?「イクメン」「スイーツ男子」「美容男子」「草食系男子」。
 これらの言葉、男と女を入れ替えたら、言葉として成立しますか?「男子力」「リケダン」「イクウイミン」「草食系女子」なんて言いませんよね。
 「女子力」って何ですか?「女子力」高いってどういうことですか?料理が得意っていうこと?スイーツに詳しいこと?可愛らしいお化粧やファンションをいつもしていること?
 このように、テレビなどのメディアは、“男らしさ”や“女らしさ”という偏見の枠にはめ込もうとする発信をし続けています。

 また、みなさんの一番身近な家族の中にもジェンダーバイアスはあります。みなさんは、お父さんやお母さんから、「女の子なのにはしたない」とか「女の子なんだから家の手伝いくらいしなさい」とか言われたことありませんか?ありますよね。
 また男の兄弟がいれば、「男なんだからしっかりしろ」とか「男のくせにペチャクチャしゃべるな」とか言われているのを聞いたこともあるでしょう。
 このように、みなさんは、物心つく前からジェンダーバイアスを植え付けられているのです。

 また、学校も残念ながら、無意識のジェンダーバイアスの刷り込みの場になっていると思います。
 学校は比較的女性が多い職場だと思いますが、校長先生は圧倒的に男性が多いです。教頭先生や主任の先生もそうです。本校もそうですね。みなさんの卒業した小学校・中学校を振り返っても、そうだと思います。
 また、共学校では、生徒会長も男子が務めていることが多いのではないでしょうか。
 学校生活を送っていく過程で、長くそういう状況を見ていると、「リーダー=男性」「意思決定は男性がするもの」というイメージが刷り込まれてしまいかねません。

 社会に出るともっとシビアになります。私の手元に、9月16日付けの日本経済新聞の広告があります。書いてあることを幾つか読んでみますね。
 「実力主義っていうけど、その実力って誰の価値観?おじさんの感覚に合格する人だけ昇進コース」
 「女性だけ、“お子さん小さいからね”とプロジェクトから外されるのマジで謎」
 「テレビ番組。ご意見番は男性で、素直にうなずく役は若い女性アナウンサー。この構図、もう古すぎて痛い。」
 「妊娠、不妊治療、緊急避妊ピル…、女性の身体に関するルールを、男性ばかりの政治家が決めている風景に、軽く絶望」。
 こんなのもあります。「面談で “育休取れますか?” と聞いたら、“偉くなりたくないの?” と言われた。いや、俺、フツーに仕事もバリバリやりたいんすけど?」。

 これは、日本の名だたる大手企業が、性別に対する世の中の偏った考え方を正し、その人の、その人らしさが十分に発揮できる公平な社会を目指していこうというキャンペーン広告です。
 これってどうなんだろう?思わずそう言いたくなるようなモヤモヤ、小さな違和感をそのままにせず、それを表明することで社会を変える第一歩としようという取り組みです。
 これは、みなさんもよく知っているSDGsの目標の一つである「ジェンダー平等を実現しよう」と同じものですね。

 男女平等と言いながら、実際はそうではない社会の現実があります。大きな壁となるものは、世代間ギャップです。世代の違いで、管理者層である立場の人たちの考えが古いということです。
 しかし、みなさんの世代が今この問題に取り組めば、価値観は変わっていき、みなさんが大人になった時には、今の当たり前が当たり前でなくなっていくはずです。そのためには、おかしいと思ったことは、みなで一緒に声を上げる、そして行動を起こすことがとても大切だと思います。

 みなさんは、今、女子校にいますから、比較的ジェンダーバイアスを感じずに過ごせる環境にあります。
 ただし、世の中にはジェンダーバイアスがあるのだという事実を認識して、自分がどうあるべきかを考えてほしいと思います。
 女性らしくある力「女子力」ではなく、自分らしくある力「自分力」を大切にしてください。
 「自分力」をみがくには、自分を正当に評価し自信を持つことが必要です。それには、『自信=行動』ととらえて一歩踏み出すことが大事です。行動しないことには、自信を得るための成功体験や失敗までも逃してしまいます。自信は、自分の努力で身につけられるスキルと考えて行動してほしいと思います。

 以上、私が、文化祭と体育大会でのみなさんの頑張りをみて考えたこと、そしてみなさんにエールを送りたいと思ったことを話させてもらいました。

 それでは、今日の私の話は以上になります。どうもありがとうございました。