滝井通信

避難訓練と「行為の意味」

2021.10.01

 みなさん、おはようございます。校長の松下です。
 暦は今日から10月、空気もカラッと爽やかになり、大分過ごしやすくなってきました。いよいよ秋本番ですね。読書の秋、スポーツの秋、食欲の秋、秋は何をするにも良い季節です。みなさんも、自分なりに今年の秋は「〇〇の秋」にしようと目標を置いて充実した時期としてください。

 さて、今月は来週5日火曜日に、延期になっていた避難訓練が実施されます。南海トラフ地震が発生したとの想定で、教室から避難する訓練です。人はとっさの時、普段やっていること、もしくはそのために訓練したことしかやることが出来ません。みなさんも自分事としてこの避難訓練をとらえ、真剣に臨むようにしてください。今日は、私の地震体験も交え、みなさんに一つお話しをしたいと思います。

 3月11日、みなさんこの日は何の日か分かりますでしょうか?
 東日本大震災が起きた日です。
 今年で丸10年が経ちました。死亡者 約1万6千人、行方不明者 約2千5百人に及ぶ大変な大災害でした。当時はみなさんはまだ小学生低学年。はっきりと覚えている人は、ほとんどいないかもしれませんね。

 私は当時、東京に住んでおり、震災が起きた午後2時46分には、前職の会社の横浜支店の建物の中にいました。私は大阪生まれ、大阪育ちですが、当時は地震の多い東京暮らしが20年近くにもなっていましたので、地震にはある程度慣れっこになっており、震度4程度の地震であれば、「あっ、地震だ」くらいに反応するのがせいぜいになっていました。
 しかし、あの震災が起きた瞬間は、「死ぬかも‥」と思いました。それまで何回となく地震は経験していたものの、まったく種類の違う激しい揺れ、自分が今いるこの建物は間違いなく倒壊する、そういう恐怖にかられました。時間もとても長く感じ、感覚的には5分くらいは揺れ続けたように感じました。津波や原発事故など、この震災によりどのような被害が出たかはみなさんも知っているかと思いますが、まさに未曾有の大災害でした。
 私にとってもそれまで経験したことのないあまりの衝撃的な出来事に、その直後からは何よりも家族に会いたいとの思いが募りました。震災の当日は妻の誕生日でもありました。地震が起きた後は電車はすべてストップしていましたので、私は震災発生から約5時間ほど経った夜7時半に、自分のいる横浜から自宅のある東京を目指して歩き始めました。道路は車で大渋滞、街もいわゆる帰宅難民であふれ返っている状態、気温も3月にしては冷え込んでおり、寒さと不安がしんしんと身に染みる道のりでした。途中、川崎を通った際には、東京湾をはさんだ反対側にある千葉のコンビナートの石油タンクが火災で煌々と炎を上げているのが見えました。
 ひたすら歩き続けて6時間半、夜中の2時にようやく自宅にたどり着きました。妻と娘が無事でよかった、二人に会った瞬間のことは今でも忘れません。

 このように、人それぞれに大変な思いをした東日本大震災。その東日本大震災の後、しばらくして、テレビで公共広告機構「ACジャパン」がある広告を流すようになりました。
その広告は次のようなものです。
 
   「こころ」はだれにも見えないけれど、「こころづかい」は見える
   「思い」は見えないけれど、「思いやり」は誰にでも見える
     その気持ちをカタチに
 
 このような広告です。多くの人が震災でつらい思いをした。そうした人に寄り添おうという気持ちを、具体的な行動として表していきましょう、と訴えかける広告です。
 この広告は、宮沢章二という詩人の「行為の意味」という題の詩から引用されています。しかし、この詩の原文はもっと長く、今日はみなさんにその原文を紹介したいと思います。

 
  『行為の意味』
   あなたの「こころ」はどんな形ですか? とひとに聞かれても答えようがない
   自分にも他人にも「こころ」は見えないけれど、ほんとうに、見えないのだろうか
   確かに「こころ」はだれにも見えない。けれど「こころづかい」は見えるのだ
   それは人に対する積極的な行為だから
   同じように胸の中の「思い」は見えない
   けれど「思いやり」はだれにでも見える
   それも人に対する積極的な行為なのだから
   あたたかい心があたたかい行為になり、やさしい思いがやさしい行為になるとき
    「こころ」も「思い」も初めて美しく生きる
   それは人が人として生きることだ
 
 以上が詩の原文です。
 みなさんの行為は意味を持ちます。みなさんの「こころ」や「思い」を積極的に言葉や行動に表せば、それにより人を応援したり、支えたりすることができるのです。地震だけでなく、ここ最近も日本各地で多くの自然災害が発生しています。避難訓練をするこの機会に、ぜひそんなことも考えてみてほしいと思います。

 それでは、今日の私の話は以上です。どうもありがとうございました。